失敗した。いや、失敗ではない。質問に答えただけなのだ。それの何が失敗だ。誰が、まさかそんなことを、想像するのだ。ああ!ゆう子は食べている。いそいそと!公園のベンチに座って。バーニャカウダか?バーチャルバーニャカウダ?パパは見ているんだぞ!気づかないのかゆう子!しかし、ああ、おれはなぜそれをやめさせないのだ?
「あ、ちょうちょ!なんだかへんな飛び方してる。あっちいったりこっちいったり」
「アオスジアゲハっていうんだ」
「アモジ……?」
ゆう子は立ち止まったまま、ひらひらと舞う蝶を目で追いかけている。
「あたしもいつかあんなふうに飛んでみたい!」
「あんなふうに飛べたら気持ちがいいだろうな」
「パパ、あのちょうちょは何を食べるの?」
「葉っぱを食べるんだ」
「どんな?」
「ゆう子がいま見ている」
「これなの?」
ゴツゴツとした幹をぺちぺちと叩いて、叩き終えてゆう子はじっとクスノキを見上げた。
「香りがするんだ。ほら」
一枚の葉をちぎってわたす。小さな指はつまんで、かわいらしい鼻に当てる。
「いいにおい」
ほお!この歳にしてこれがいい匂いだと!おれは小学生の頃、嗅ぎすぎて具合を悪くしたことがある。ゲッケイジュのときもそうだ。
少女はほほえむ。
「パパ、おうちかえろ!もう暑いよ」
可愛い娘に連れられて、おれは誇らしげに通りを歩いた。