タメ口を聴いて

タメ口を聴いて、でかけよう。「おはよう」と、声が、聞こえるふり。たまらず、電信柱から鳥が降りてくる。「曲がって、曲がって!そのままだと、轢かれることに、なってるよ!」容赦なく、羽根をもぎとる。「何するんだよう!」鮮やかな好奇心が、周囲に散らばる。たどたどしさに溢れた子どもたちに、瞬発力が漲り、わたしと鳥を囲い込む。「めんどうくさいことに、なったわね…」ひとまず大股で、食い込んでみると、道はすぐに開けた。一部の子どもたちは、大部分が回転して、笑った。「タメ口を聴いて、でかけよう」わたしは、ひといきれを作ろうとして、叶わなかった。そのうえ、歩くスピードが、緩やかな坂に負けてしまう。「こんなことも、あろうかと」わたしは、融点の低い魂を呼び寄せて、気化した背中に飛び乗った。急激に、高みへと到達した。見下ろすと、交差点で待つはずだった時間が、こちらを見上げている。耳に、携帯電話を当てている様子で。すると、わたしの携帯電話が、鳴った。

トッピング異物常態化ラーメン店、俺と女

「お待たせしました。ラーメン大盛りです。わたしの、心のカスが、入っていますので、歯間ブラシをご利用ください」たいてい、何かが入っている。今日みたいに、抽象的な何かを混ぜ込んできたのは、初めてだ。しかも、歯間ブラシを使え、と。食後か?食事中か?箸が、端の席にしかないので、取りに行く。口を細くして、貧しそうに食べる女の前髪に、手の甲が触れながら、その箸を取り上げる。まったく、どの席にも、箸くらい、置いておいてほしい。女の使っていた箸は、スープだか女の唾液だか、どちらか黒い色をしている方に、すっかり染まっていた。これは、期待大だ。ラーメンが旨くなるか、器ごと食べるか、どちらかだ。「あのー」女が、俺のそばまで来て、何か言いたげだ。「あのー。箸のけんなんですけど」そう言って、何かを突きだしてきた。それが、あまりにも真っ直ぐに、正面にあるせいで、数字の1だった。少し角度を変えてみると、面積の広い部分が、見えてきた。「箸の……剣?」「そうです」女は、言い切らないうちに、頭を狙って刺してきた。俺は、その日、枕を失った。

エミの朝

「満たされているんですッ」三角コーナーを凝視しながら、言うこと。目玉の半分以上が、透過性のある色で出来ていると、信じていること。パソコンセンターで、買うもの。ミルク。

弁当箱が小さいのか、レタス5枚ほど詰めたところで、満腹感のある様相を呈した。蓋を開けた瞬間に、さやさやと、葉ずれの音が聞こえる。目で楽しめる、行楽。脚は、ふんぞり返る。逞しい腕をした田野本さんが、小さい子どもの形を抱えながら、出社していく様子が、キッチンの窓から駅へ向かって走っていく。町の傷、たちまち癒やされる。ミートボールが入れる、隙間はない。マカロニサラダが上書きできる、色はない。箸は、誰が見ても、要らない。料理って、楽しい。実物大のつぶつぶが、込み上げてくる。少しだけ吐いた。

密やかは、食べ物の角度を測るのが好きだ。今は、まだ寝ている。起きたら、きっと、卵の角度を測る。牛肉の焼いたやつも、あるのにね。そっと、ふすまを開けて覗いてみると、すっくと寝息が立って、こちらのことを覗くようにして、見ていた。朝からパントマイムを見た朝なんて、やっぱり朝だから、日中はおのずと不思議。寝息のお腹はぺこぺこで、鳴っているはずだけど、密やかのいびきがかきむしるので、ぺこぺこぴー。もう少し、寝かしておいてあげよう。昨晩は、夫の遊歩道が、ガードレールを越えるなどして、キッチンを盛り上げてくれた。おかげで食器棚の中は、横滑り立野町3丁目。今のは、夫が、シーツに絡まっている音。

電子レンジの、モード切り替えボタンを掠めて、皿を投げて遊ぶ暇ができると、徹底してエプロンのボタンを掛け違えることにしている。今朝は、後ろのボタンと、前ポケットの裏側にある、用途不明のボタンと掛け違えてみた。すると、お腹のあたりがひどく締め付けられるような心地になり、しばらく立てなかった。夫の遊歩道が、酒を飲みすぎて、縁石を振り回して、わたしのお腹に当たった時ぐらいに、苦しくなってきたので、わたしは思わず、弁当箱の蓋を開けてしまったくらいだ。そこには、草原のような空があり、雲が浮かんでいたならば、その角度を測りたいと願う、密やかの姿も見えてきた。呼吸が、落ち着いてくる。きりっとした、眉。

「迎えに来たんですッ」毎日、この時間になると、安田さんの家の前で、流暢な日本語が響き渡る。あまりにも、滑らかな舌触りの、スイーツのような、耳を澄ますと、ロールケーキの、安田さんが、転がり込んでくる。「エミちゃん、食べる〜?」安田さんは、毎日こんなテンションだ。わたしは、すかさずためらう。「ん、え…と、夫も密やかも、食べるかも…」「エミちゃん、気にしないで〜。うちは、二日にいっぺんは、恋をしようねって、言ってるからさ〜」安田さん夫婦は、二人で暮らす意味を、一生懸命、考えている。「そうだ、安田さん…紅茶でも、まっすぐに、均す?」「いいわねえ〜」わたしたちは、左手で紅茶の先端をつまんで、右手でも先端をつまんだ。紅茶は、つままれていた。

南向きのファド

南向きのファド、落ち着いて、こちらを見ている。快楽の在処を、探しているように見える。後頭部のあたりを押さえながら。消防署から救急車が、音を立てながら出ていくのを、眺めているようにも見える。あくびをしている。

南向きのファド、開け放そうとして、うまくいかない。閉じようとして、すでに閉まっている。体験したことのある動きを求めて、求めていない動きへと関節に導かれる。戸惑っている。誰かに追われるように交番へ駆け込んだ一人の若い女が、警察の不在がわかって、再び駆けていくのを、眺めるようなまなざしで。ところで、彼女は、近くの民家の扉を叩いている。

南向きのファド、明日の予定を失くす。信号無視をした勢いで、掛けられた声の全てに威嚇で返す。街道沿いの家の窓を、覗き込む。鏡張りの部屋の真ん中に、天井が、床に、へばりついている。空間がないらしい。その家の、玄関の前に吊られている自転車を、静かに下ろす。奥の家から、誰かが出てくる。「この自転車を」声をかけている。「修理しに来たのですが」住人は、目を丸くしようとして、うまくいかない。丸くしようとして、すでに丸くなっていることに、気づいていなかった。

くだらないの中に?

しょんべん浣腸しょんべん浣腸。挿入時、尿を腸内に放出すること。決して漏らしてはならない。とくに、ベッドの上では。

わたしは終始、薄気味悪く微笑んでいた。ああ、ここも用無しか。そんなことを考えながら、残り1/5のフォアローゼズを飲み切ることも、考えていた。実際、周りの人々は、お喋り上手だった。というよりは、その場にいる人間が満たされ、満たされたまま帰路につくためには、ということを、考えるまでもなく、ルールとして、行っていた。つまり、顔も知らぬ人間に対する、愛だった。男として男を愛する者同士の、仲間に対する、愛情だった。わたしは、それを、しなかった。わたしは、女だったから。この世には、ひどい言い訳が沢山ある。立派な言い訳になるような、救いようのないことが、沢山ある。

亀頭の折り方を伝授されて、おしぼりで折り出す男ありけり。実際、立派な亀頭であった。そこにいた多くの男らに言わせれば、20代の硬いそれ、50代ではない、とのこと。口に出すことが、その人間の好むこととは思わない。好まないことでも、その空間に合うように、独自のフィルタを通して、好ましいものにする。これが、わたしより長く生きている人間の振る舞いか。わたしは、悉く異物であった。わたしは、すこし困った。店主も困ったし、両隣も物憂げで、ああでも、このような時間に癒やされる部位を、あなたがたは保有していても、わたしは保有していなかった。それだけのことだ。わたしの求めていることは、ここにはなかった。かんたんなことだ。お前の求めるところへ、走っていけ飛んでいけ。

しょんべん浣腸、などというプレイを、することもなかろう。俯瞰的に見た己の姿の浅ましさが、目に浮かぶうちは。見えなくなることはなかろう。わたしは心に、誓いそうだ。誓いたくなる。誓うという言葉が、誓う、という終止形以外で使われる時は、だいたい、誓っていないし誓われないし誓うな。

わたしはこの先死ぬまで、生きている何者かと、性交をすることがあるだろうか?それにしても、くだらない時間だった。

短編BL

パンツを穿く前に食べてしまったので、穿くパンツがなくなってしまった。ネットで注文しようか迷っていると、「俺が吐くよ」と声がする。振り返ると、翔太が口に手を突っ込んで、吐こうとしていた。

「悪いね、うっかり、食べちゃってさ」

おえええー、と物凄い音が鳴る。翔太はものの見事に吐き出した。

「……ふう、あ、ブリーフでいい?」

吐かれたてのそれは、当然、生温かく湿っぽく、そして、穿き古したように黄ばんでいる。俺は、たまらなくなり、穿いた。じっとりと、翔太の愛を、感じた。

鎖が脚に絡まって、走れない。

鎖が脚に絡まって、走れない。諦めて、歩き出すと、歩ける。何処へ行こうかな。いつのまにか、駅で切符を買っている。行く先は、考えていないので、分からない。改札に切符を挿し込んだ時、発車の案内が聞こえてきた。思わず、走り出した。走れなかった。それどころか、転んでしまった。いたた。あっ。鎖が脚に絡まっているのを、忘れていた。そりゃ、走れないわけだ。壁に手をついて、立ち上がる。歩き出すと、歩ける。ふと、昨日の夕食を、思い出す。何を食べたっけ。思い出せない。鎖が脚に絡まっているせいだろうか。もしそうならば、ほどいて、思い出したい。エスカレーターに乗る。少しずつ、高いところへ運ばれる。下りてくる人が、いない。この時間は、下りる人が、いないのだろうか。鞄の中から、酒だ、と店主に言われた水を取り出して飲む。ほのかに、樹木の根の味がした。鏡が落ちている。100円ショップで売っているような、代物ではないと分かって、踏む。鏡のように見えた、チューインガムだった。靴の裏、靴底の溝という溝に、入り込んでしまった。こんな形にして、吐き出す奴が、あるものか。べちゃべちゃ音を立てながら、歩くことになってしまった。脚に鎖が絡まっているというのに。いや、ここで、逆転の発想だ。これなら、走れるのではないか。走ってみよう。走り出そうとした時、そこにいた駅員に、ビンタされる。その場に、倒れこむ。心の声が、彼に、聞こえていたらしい。ホームの上を、走る大人が、いるものですか。顔を紅くして、相当、怒っている。すみません、今なら、走れそうな気がして。人に迷惑かけたいなら、商店街で、思いっきり走ればいいじゃないですか。どうしてわざわざ、この駅で走ろうなんて、思うのですか。ふざけないでください。さあ、思い切って、ここから出ていってください。二度と、ここへ来ようなどとは、思ってはいけません。そもそも、なんですか、その、脚に絡みついている鎖は。まさか。エスカレーターにも、伸びていますね。いや、改札の外にまで。いや、駅の外にまで。いったい、あなたは、鎖を引きずって、何をしようと。ははあ。もしや、このまま電車に乗り込んで、他の電車が、その鎖に乗っかり、脱線することを、楽しみにしているのですね。いや、そうだとしたら、鎖は、切れてしまうのではないですか。いや、そうだとしたら、あなたの脚が、ちぎれて、飛んでいってしまうのではないですか。おもしろいことを、考えていらっしゃるようですね。許しますよ。めでたく、脚が、ちぎれたら、ですけれど。駅員は、最後には、笑顔を輝かせた。つられて、こちらも、笑顔になった。周りにいる人々も、ほのかに、笑顔を浮かべていた。笑顔って、いいものだ。心から、そう思った。

72人

胸を張って大股で堂々と生きていないから、こうなるんでしょ。あれこれ言うくせに、胸を張って大股で堂々と生きていないから。脚の短さ……そういう問題じゃないんですよ。マインドの問題。そういうあなたのことを好きでいようとしたわたしが間違いでした。拾って……栗の皮が剥けてる。

声をかけてみると、蚊のような小さな羽ばたきが耳の奥で轟音になって返ってくる。交通整理しているおじいさんが次々倒れていく。おじいさん専門のおばあさんがやってきて、背中のネジを巻き直して、再度おじいさんは交通整理にあたる。好奇心の塊が寄せ集められて、好奇心の塊の塊になる。ただそれだけのことですけれど、あなたのことが、どうでもいいです。もともと好きでもなかったのかもしれない。

ケーキに単刀直入して、すっかり黙り込んでいる新郎は、昔の女の笑顔を思い出して、目の前の花嫁の目元が霞んできている。他の部位はハッキリよく見える。目元だけ。式場の家族たちが、余興のつもりで、だるまさんが転んだを開始する。式場で一番幼いどこかの誰かの娘が鬼(の形相)になって、壁に腕をつけて額をつける。そして喚く。だるまさんが転んだ!……転んだまま、動かなくなったのよ……わたしは近くにいて、それを見ていたのに、助けなかった……わたしの敵は、わたしです……ファイト!……中島みゆきがスピーカー越しに歌い出す。たまらず家族たちは娘のもとへ駆け寄って「よく頑張ったね」「いつか公衆トイレに行こう」「甜麺醤を舐めてから考えましょうね」など、口々に言いたいことを言っている。どこかの誰かの叔父のような年齢の男は「網戸、網戸、サッシ……」とずっと娘に囁きかけていた。後継者不足らしい。と思えば、今度は目に入ってきた数字を一人ずつ掛けていく、という算数のような儀式が始まっていた。最後の72人目が386,724!と声を上げたとき、その音が式場にとてもよく響いた。誰かがソースをかけた。コロッケはそこになかった。

「ごめん、その話前に聞いた気がするけど」

丁寧な接客をしているつもりでも、相手が丁寧と感じなかったら丁寧じゃないだと?たまったものじゃない。地球上の親指の硬い爪を、片っ端からパチンパチンと爪切りで挟んで飛ばしてやりたい。すかさず地面に集った蟻たちを、じっと眺めて心を落ち着かせてしまいたい。きつく縛られたゴムチューブによって血流が滞った腕でダンベルを上下に振ると、やがて腕はパンパンに膨れ上がるとかなんとか、喋りながら尋ねてきた女がいたな。「んもう、すっごいの!トレーナーに痛い痛い!もうムリもうムリ!って言うんだけど、全然聞かなくて。ハイ、もっと頑張ってね〜あと4回、ハイ3回って、もうちょっとだよ〜……もうホント、こないだは眉間のほうがふくらみすぎた……この肥料って、アジアンタムに使っていいんですか?」「はい、大丈夫です」「なんでそう言い切れるんですか」「なんで?そういう決まりになっているからです」「それ誰が決めたの?」「お客様が眉間を……ふくらませて……までトレーニングに通う施設にいるトレーナーのようなプロが植物業界にもいるわけなんですね」「いや、ウチに来てくれてるし特にプロじゃないから」