早春物語

できないことは、人任せ。お金払って、人任せ。ねえ、あなたって。なんでも自分でできるようになりたいんですか?なんでも自分でできるようになったら、なんでもできる自分をどうしたいんですか?なんでもできるって、具体的になにができることを言うのですか?なんでもできるようになったら、できないことはまるで無いのですか?知っていますか?ばかはあたまがわるいんですよ。

怖気づいた鳥が居たので、笑顔をつくって手を差し伸べたらつつかれた。枯れた椿の花がまるごと頭の上から降ってきて、頭にあたってバラ・バラ・バラの花が咲き乱れる庭にトリップした。古い、古すぎる、十万石まんじゅう風のアパートの二階に干されていた、上品な模様のブラジャーが意図的に落ちていく。あれでは一階の住民が喜ぶばかりだと思っていたら、今度は一階から二階に向けてそれとは別の上品なブラジャーが打ち上げられる。どうやら上品さを競い合っているらしい。どんな美しい女性が住んでいるのかと目を細くして見ていると、それはただの惰性であることがわかった。怖気づいた鳥はまだそこにいて、塩気が効いたシャツの端っこを咥えてこちらを見ている。塩分過多……かわいそうに。カーテンのない出窓に猫がいて、唸っている。わたしは笑顔を作って舌を出した。さようなら……たしかどこかの国では、舌を出すのは別れの挨拶だったよね。