「わたしはいつからこんなつまんない人間になっちゃったんだろうね」
「大丈夫、最初からだから」
「そうだよね」
畑で土が踊っている。スベリヒユが雑草に見せかけて栄養を蓄えている。頭にタオルを被った男性はまだ若いらしく、せっせと両手で土を掬って空高く投げている。どうりで土は踊るわけだ。彼の頭に巻いたタオルは、洗うのが嫌になるのも容易なほどに粒子たちを大事にしていた。
隣ではカップルがキャハキャハしている。どうやらゲームをしているらしいのだが、画面に表示された【pull!】を見事に全て【push!】していた。そのため、ゲームをファーストステージから進めることができないようで、それを楽しんでいた。あまりにも【push!】するせいで、カメラのレンズが前のめりになり、窓の外のマンションを眺めていた。
「わ、コングラ!コングラだよ!」
岬は叫んだ。
「なになにコングラって」
興奮している岬を宥めるように葵は落ち着いて問いかけた。岬は葵の目を見つめた。
「コングラ………こんぐらちゅれいしょんのことだと思ったけど、違うのかな?」
「わたしは知らないよ」
「でもコングラ」
かつて街を埋め尽くしていたとても硬いものは今やすっかり剥がされて、一箇所に集められていた。硬いものは山積みになり、カエルの鳴き声をその内側から発し、街道を走る車たちをいちいち引き留めている。岬は、足下の緩んだネジを撫でた。
「なんか締まらなくなっちゃって」