おじいさんみたいなおばあさん

「あ、うん、いいよ、好きなだけ居な」

おれは畑のど真ん中でぼーっとすることを許された。見渡す限りキャベツ――おれにとってキャベツ畑がいま一番の生きがいだった。

おじいさんは、腹が減ったら勝手に収穫して食べていいと言ってくれた。優しいって怖いかもと思ったことは、まんまるな青い玉を地からとりはずしたときにはもう忘れていた。

「ウーバーイーツでマヨネーズ頼もっかな……」

イートインもできるマヨネーズ屋、駅前にオープン!というチラシがこのあいだ入っていた。キャベツ畑だけが生きがいのおれにしてみれば、それは非常につまらなく、ポストからまっすぐゴミ箱に放り込まれた。

「本当にキャベツを食べていいのかな……」

急に不安になり、ポケットから財布を出す。小銭を漁る。五十円玉が三枚。その一枚を指につまんで右目に近づけ、その穴からまずは空を見、次にキャベツを見、その次に先ほどもぎ取った場所に残された白い茎を見た。内視鏡手術をするかのように小銭の穴から覗きながら、おれは左手の親指の爪でその白い茎に三つ痕をつけた。ここに五十円玉を挿すのだ。きっとおじいさんはびっくりするだろうな。