異臭

金曜日。仕事から帰ってきた体は、思ったより疲れてなく、これから少しぐらい出かけてもいいような具合だ。部屋にある姿見をなにとはなしに覗き込んだ顔の上の方には、くろぐろとした芝生が生え揃っている。まだいいかな、と思いながら、充電式のバリカンを手にする。近頃、床屋に行くのをやめた。散髪代を浮かせるために、自分で髪を刈っている。今日は、きたならしく生え散らかした髭も、剃刀で剃ってすっきりしよう。裸になって、風呂場にしゃがみこみ、電源を入れる。こんな小さな機械のくせに、音はいっちょ前で、隣人がベランダの窓の前で何の音かと耳を澄ませている姿が目に浮かぶ。どうか座って夕刊でも読んでいてほしい。よろしく頼みますよ――ん?何かがにおう。明らかに匂、ではなく、臭、である――ちんこだ!ちんこが臭うんだ。しゃがんだため、いくらか近づいた顔に向かって、弱々しい陽炎が立ち昇っているらしい。断続的に刺激される鼻腔。ここから10分間股間の臭いからジャブを受けるのだった。