シリーズ1

スポイル・オクトパッシュは、ブログを書いていたことがある。当然ながら、ブログを読んでいたこともある。スポイルは17歳くらいのときにこの世に姿を現して、19歳くらいで姿を消した。ところで、いま喋っているわたしは、彼にスポイルという名を与えた者である。スポイルはゲイだったし、そういう意味では、わたしもゲイだった。過去形になってしまうが、それは今も続いている。

横浜の梨であるためには、横浜で成る梨であることが避けられない。農家のお嫁さんが夕方の空に立つ鉄のひとを見上げている。ガラケーを風に捧げるようにして写真を撮っている。農家のお嫁さんは、晴れた日は耕し、雨の日は読書したい。休みの日には庭をかけるこむぎとあんこを、縁側に座って眺める。スケッチブックを持ち出して、さらりと絵を描き始める。台所のプレイヤーからサザンが流れている。横浜の梨は、浜なしと呼ばれる。農家のお嫁さんは、お母さんを亡くして、とても悲しんでいた。

スポイルは浜なしを覚えた。いつだったか、新横浜を訪れて、梨を売っているとある瓦屋根の家を目指したことがある。浜なしが2つ入った袋を買った。ええと、いつか、ブログやっていませんでした?やっていません。晴れた日は耕したくないし、雨の日は読書したくない人だった。

スポイル・オクトパッシュはブログを書いていたことがある。ブログを書くということは、ブログを読むということにもつながる。それゆえ、彼はブログを読むということがあった。