桜x 〜サクラックス〜 vol.1

「なんで💢こんなに💢風が💢強いのか💢しら」

ゆきは声に出して怒りをあらわにしていた。ほんとうに強い風の中で。8mぐらいの、いや、11mかもしれない。しかし、彼女はすぐに我に返った。なぜなら長い時間怒っていられないたちだから。そして考え始めた。

「風が強いことに怒りを覚えるのはどうしてかしらね」

彼女はこういうとき、まず頭の中に黒い点を描くことにしていた。箇条書きによる答えの導き方を好んでいたからだろう。早速彼女は黒い点を一つ頭の中に描いて、答え候補1をそのあとに綴った。

・目にゴミが入るから

ゆきは眼鏡をかけていた。それゆえ、彼女は少し安心していたところがあった。遠くがよく見える不思議なワレモノを盾にしていれば、砂埃が舞ったぐらいでは動じることはないと。しかし、今日の風はこの考えを揺るがすほどに強かった。実際、この考えは揺らいでしまったため彼女は怒りを覚えたのだろう。

「改札階さん!」

声を掛けられて振り向くと、少し先の建物の角から甘露寺蜜濃が手を振っていた。正確に言うと、あまりに風が強いので手が振れず、指を大きく開いた手をゆきの方へ向けている状態だった。

「え、5m!?今日はもっと強いよね?」

「そういう意味の手じゃないよ」

蜜濃は大きく開いた右手に「人」という字を左手で3回書いて、右手に残った感覚を空高く投げ捨てるがごとく腕を連続して突き上げた。

「なになになに、どうしたの急に」

「なんにもしてないよ」

 

つづく