なけなしの日本語

まずその、道行く男の特徴を、あなたもきっと賛同するに違いないわたしが彼に感じた特徴を、述べようと思う。ヒゲ面、眉太く、二重、短髪、むっちり。朝の光がまもなく屋根屋根に行き渡る時刻。流れてゆく景色の中で、田無駅へ向かうひとの中で彼だけを、バスの後ろで虚ろな目をして窓の外を眺めるわたしは無意識的にしかし義務的にそして確実にロック・オン、すかさず彼をゲイと見なした。(そう、)彼は、ゲイによってゲイだと見なされないはずがない風貌だった。と思う。彼に許可をもらってアンケートをとったとして、彼をゲイだと思ったひとがいたなら、そのひとは、過去にそのような風貌のひとが、わたしは/俺は/ぼくはゲイだと述べたか述べなかったかは知らないが、とにかく男でありながら男に性的興奮を感じる傾向があるひとだと認識した経験を、忘れずに覚えていたひとだと思う。あなたはすでに知っていると思うが、話は戻りたがっている。話を戻してやると、彼はその特徴であるがゆえに、「精液ほっぺたに垂らされやすく、また、それにて自身も射精し、須らく悦に入りやすい」という予測、希望的観測、ほぼほぼ断言を、わたしによって為されてしまったのだ。この文章は「 」のために持ち出された、わたしが知るなけなしの日本語である。