そのまま

「あ、菊」

「めっちゃ咲いてる」

「畑の菊って、好きだな」

「わかる、だいたい端っこにいる」

「ねえ」

「うん」

「死体ごっこ知ってる?」

「死体ごっこ?」

「うちの地元、畑多かったからさ」

「うん」

「まあ、菊を見つけたら、そこで横たわるだけなんだけど」

「趣きがある」

「必ずしも横たわらなくてはいけないわけではないんだ。鬼はいないから」

「鬼もいない」

「そう、鬼もいない」

「………」

「菊の匂いって、好きだな」

「わかる、冬の匂いだよね」

「最近さ」

「うん」

「ぬか漬けを始めたの」

「そうなんだ」

「マッシュルーム、旨いよ。あとレンコン、ゴボウ」

「きゅうりとか大根じゃなく」

「幼い頃は、漬物なんてと思ったけどさ」

きゅうりのキューちゃんぐらいかな」

「年を取るとさ、ビールも飲むようになるし。なんなんだろうね」

ユーミンが言ってたけど」

Yuming

「細胞が入れ替わって、別人になるんだって。だから、過去のわたしはわたしじゃありません、と」

「そういう歌あったよね」

「どうかな」

「……ひとりベッド〜に〜す〜わっ〜て〜」

「鏡の前のスミレが開き始めた歌でしょ」

「あの歌ってさ」

「うん」

フランソワーズ・アルディのことを歌ったのかな?」

「あなたの好きなものはひとつ残らず」

「「言えるわ」」

「……鏡の〜前の〜ス〜ミ〜レが〜」

「昨日〜ようやく〜ひらき〜はじめ〜た〜」

「ずっとそのまま〜咲い〜てい〜て〜」

「あなたの〜心が変わらない〜よう〜に〜」

「「そ〜のま〜ま〜」」