エスティー・ローダーのリップ、スティック、ジャンピング

静まりかえった夜のこと。漆喰の壁にSuicaをタッチして「チャージ!パワーを」と言っている皆川行夫を入れてしまったんだよ!そうだよ、入れちまったんだ。皆川は入れられてもなお「チャージ!パワーを」と言い続けていた。だのにそのような夜がなぜ静まりかえった夜などと言われる筋合いがあるだろうか?イケアの青くてデカい袋、シャカシャカ鳴りて、皆川曰く「チャージ!パワーを」。怖くなってすぐに奴を袋の外へ出したことは覚えているが、その後は怖くて思い出したくない。「チャージ!パワーを」その漆喰の壁はじつに吸音性に優れていた。

とどまることを知らない湧水が、ビッグサイトコミケの賑わいを知らないのと同じで、おそらく皆川だって生きてきた全ての時間において見かけたバイリンガル幼稚園――クマザサ……クマザサ……ああ、ごめんよ、磯の香りを纏った葉の表面にかかる北緯36度線のことが気になってしまっただけだ。それに、イケアのデカい青い袋がこっちを見ているような気がする。

デキストリンが滲んでくる皮膚が飛ぶように売れているらしい。しかし、もうすでに剥がされているならば、滲んではこないのでは?この質問に業者からの返事はない。片時もデキストリンを忘れない生活なんだぜこちとら。そんな皮膚が手に入ったなら、即座に八国山緑地が有する櫟の木の数を答えられるのに。

そしてまたしても静まりかえった夜が、漆喰の壁にあてがわれるSuicaを期待している。皆川はやはりイケアのデカい青い煩い袋に一時的にしまい込まれて、わたしはきっと奴を出してしまったのだろう。鍋と箪笥の間に畳んで仕舞い込まれたイケアの袋がやはりこっちを見ているような気がする。