また来年というおばけ

物騒な時代があった。家々にはみかんというみかんが投げ込まれ、スーパーマーケットの果物売り場にはそれはもう見事にみかん以外の果物が肩を並べていた。それゆえ、この地域の家には必ずと言っていいほどみかんの木が生えていた。時生の家にはみかんの木とリンゴの木がある。このリンゴの木はみかん騒動のあと、みかんと並んで芽を出したという。時生の両親も兄弟も時生自身も、それをリンゴの芽だとは思わなかった。なぜなら、みかん騒動のあとに芽が出てきたからだ。時生はリンゴの木もみかんの木も好きだ。それは時生の両親も兄弟も同じである。