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バスで異臭騒ぎ 運転手1名重体

ランチどきに流れてきたこのニュースは、わたしのなかに光を走らせた。このバス、今朝乗ってきたバスだ!終点で降りる時、左後方の座席の上にみかんが一個置かれていたのをわたしは見た。あれはみかんではなくて、みかん型のやばいやつだったのだ。運転手は客を降ろしたあと、後方の席まで車内点検をする。そのときにみかんを拾った。「なんだぁ?みかんか」誰も自分が食べないみかんになど警戒しない。運転手は「かわいそうなやつ」と言いながら手のひらに載せた。きっちり4秒間、そして呟いたんだ「なんかかわいいな」って!コンビニで手に入れたレジ袋をゴミ箱代わりにしているから、そこへ入れたか、あるいは裸のまま安全な位置に置いたんだ。置いたとするならば、まさに、ちょこん……と、だろうな!ああ……あのみかんはやばいやつだったんだ。誰が警戒するだろうか?弁当包みから落ちたハウスみかん以外に思いつくみかんの姿があるだろうか?食欲が失せている。運転手の容態が心配だ。停車時のエンジンブレーキの掛け方からして、彼のひととなりに対してわたしは友人の申込みをしたいくらいだったからだ。ああ!!空を軽やかに飛ぶセキレイよ、教えてくれ、きみは親のことが心配にならないか?親の死の報せなど届かなくていいのか?それとも、届くものなのか?巣立ったあとはまったくの他人なのか……そのうちどこかでばったり恋に落ちて、すんなり近親相姦……辛!!鮪の漬けなのに鮪の山葵漬けになっていて辛い!水!!まちがえた!!きみのに口を付けちまった!!ごめんな、愛してる。夜行バスを予約するから、ちょっと静かにしてくれるか?和歌山に行って、みかんを買わなくちゃ。早い!もう予約できたよ。さて、彼のバス会社に電話して入院先を聞き出さなくちゃ。本場のうまいみかんを届けてあげなくちゃいけないんだ。だって、ほんとうのうまいみかんは、やばいやつなんかじゃないんだ……喜んでくれるといいな、彼のひととなり。